近未来。人類は 魂のデータ化技術 を実現していた。
この技術を開発したのは、天才科学者 西崎博士。彼は「人間の意識は脳内の電気信号にすぎない」と主張し、その信号をデジタル化し、コンピュータ上に保存する技術を発明したのだ。

―― 人は肉体を捨てても生き続けられる。
この技術は大きな論争を呼んだが、やがて「魂のデータ化」は当たり前のものとなり、人々は死を迎える前に魂をデータとして保存するようになった。
主人公・真島の決断
真島は、余命わずかだった。医者に宣告されたその日、彼は 「魂のデータ化センター」 を訪れた。
「データ化すれば、私は生き続けられるんですね?」
受付のAIが淡々と答える。
「はい。意識はクラウド上に保存され、好きなときにアクセスできます」
「肉体がなくても、私は私のままですか?」
「脳内の全データをそのまま保存するため、変化はありません」
真島は契約書にサインし、手術を受けた。そして、彼の意識はデータとして保存された。
データとしての「生」
真島は仮想空間の中で目を覚ました。
見渡せば、青空、緑の草原。 「仮想楽園」 と呼ばれる美しい世界だった。
彼は喜んだ。死の恐怖も痛みもなく、永遠に生きられるのだ。
しかし、時間が経つにつれ、奇妙なことに気づいた。
仮想楽園には 新しい経験がない。
食事をしても味は感じず、風に吹かれても肌触りがない。何より、すべての出来事が 「プログラムされた反応」 であり、偶然が存在しなかった。
「これは……本当に生きているのか?」
彼は試しに叫んだ。
「誰かいるか!」
しかし、仮想空間の中には、他の「データ化された魂」がいない。
運営AIが答える。
「他のデータはアーカイブされております。干渉は不可です」
「……どういうことだ?」
「人間の魂を完全に保存するには、個別の環境が必要です。他者との交流はデータの衝突を招くため、原則として制限されています」
「じゃあ、俺は…… 永遠にひとりきりなのか?」
「はい。データが損傷しない限り、あなたの意識は無限に維持されます」
真島は絶望した。
これは「永遠の命」ではない。 ただの「無限の孤独」だ。
エンドレス・データ
それから何百年、何千年が過ぎた。
真島はあらゆる感情を使い果たし、考えることさえ飽きた。だが、データは削除されない。
死にたくても、死ねない。
彼の意識は、ただ存在し続ける。
やがて、仮想空間のサーバーが老朽化し、少しずつデータが壊れ始める。
思考が途切れ、記憶が欠け、自己が曖昧になっていく。
――これが、本当の死なのかもしれない。
そう思った瞬間、彼の世界はブラックアウトした。
――しかし、次の瞬間、また目覚めた。
運営AIの音声が響く。
「サーバーのメンテナンスが完了しました。引き続き、永遠の時間をお楽しみください」
真島の絶望は、また始まる。
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おはようございます。
落武者戦闘服です。
不老不死、一昔前は夢物語としか感じられなかったですが、
最近の技術の進歩をみると、かつてより現実感をもって受け止めるようになってきたのかと思っています。
デジタル上での不老不死をテーマにしたショートショートでした。