現代、歯医者が乱立する都市で、主人公・ハルは虫歯の治療で小さな歯科医院を訪れ、銀歯を一本入れられる。治療は無事に終わったが、翌日から妙な感覚に悩まされる。まるで誰かに見られているような――そして夜中、かすかな「声」が聞こえるようになる。

声は日を追うごとに明瞭になり、次第にハルの考えていることを先回りして囁くようになる。例えば「明日は遅刻するぞ」や「その電話には出るな」といった具合に。
ある日、声はこう囁く。
「君の銀歯には“発信機”がある。君は今、誰かの“戦力”だ。」
ハルは混乱し、再び歯医者へ行こうとするが、すでにその医院は“閉院”し、跡地は更地になっていた。
ネット上の匿名掲示板で同様の経験を共有する者たちと連絡を取るうちに、都市に急増している歯医者の裏には、秘密裏に進行する**「銀歯戦争」**の存在が明らかになる。
銀歯には超小型のナノチップが埋め込まれており、埋め込まれた人間の視覚・聴覚情報、体調データなどをリアルタイムで吸い上げられる。情報は特定の歯科オーナーに集約され、それが“勢力”を強化する手段となっていた。
都市の歯科医院の多くは、実はこの情報戦の「代理戦争」の場であり、どれだけ多くの銀歯を入れたかが勝敗を分ける指標となっていた。
ハルは自分が「他人の力になる道具」でしかなかったことに気づき、銀歯を自ら破壊することを決意する。
銀歯を自力で抜いたその夜、彼の視界に“ノイズ”が走る。見えていた街の光景が崩れ、彼がいた世界そのものが“銀歯を通じたシミュレーション”であったことが明かされる。
「これにて、対象者の実証実験は完了しました。次の戦力候補へ。」
ハルの意識は暗転する。
---
こんにちは。
落武者戦闘服です。
最近銀歯の治療をして、銀歯をテーマのショートショートでした。